買収をお考えですか?忘れてはならないポイントは
買収で事業拡大をする際に検討するべきことはたくさんありますので、法務を担当するチームと一緒に条件の概要をきっちり準備し、収支バランスの良い買収を実現してください。一番重要なポイントは、買収しようとしている事業が高い倫理観のもとに誠意のあるビジネスを展開していたかという点です。実は最初にこの点を指摘するのは私が経験上学んだことが大きく影響しています。買収する際に一番重要なポイントだと考えているので、私が学んだことをシェアします。
法務を担当するチーム
私はニューヨーク州ロングアイランドで生命保険の募集人としてキャリアをスタートし、当時のメンターは自分が引退する際は代理店を私に譲ると口頭の約束をしてくださいました。そのときが来たら私が彼のクライアントの保全を担当するということで共同募集もしましたが、私自身もクライアントを築いていきました。しかし、年月が経過するとふたりの関係がうまくいかなくなり、私に代理店を譲ってくださるという話は消滅し、その上に独立した際、私は収入の6割を失う結果になりました。
その数年後に私は叔父を担当していたアドバイザーが引退するというので、その方の事業を引き継ぐことになったのですが、前回の苦い思い出が頭をよぎりました。今回は早期に法務を担当するチームを組織し、不測の事態にも備えられる体制で取り掛かりました。
おかげで交渉プロセスは順調で、条件の概要も明確になっていきました。私がそのアドバイザーから事業を買い取る形で彼のスタッフのコストも一部負担しながら3年という時間をかけて順次引き継いでいくという内容になりました。その後、引き継ぎ期間は3年では足りずに5年に延長することになりました。私はスタッフのコストはその5年間もシェアする条件で延期に同意したつもりでしたが、実は口頭での約束でした。ここで問題に直面しました。相手の法務チームはスタッフのコストシェアは当初の3年間で終了するという認識でした。ということで、口頭の約束がどういう結果に至るかお分かりになったと思います。
条件と予算の明記
どれほど注意してもニュアンスの違いや誤解を完全に排除することはできないかもしれませんが、できる限り条件を明記し、確認しながら進めてください。この仕事をしていると収入源はいくつかに分かれています。すなわち、初年度手数料、継続手数料、前払い手数料、さらにさまざまな手当やフィーがあります。ここでも認識の違いという課題に遭遇しました。
私の理解では、各クライアントから発生する収入は私が買い取るまでは案分するという認識だったのですが、条件記述書にはある種の収益は全額売り手が受け取ると記載してありました。ちゃんと理解して合意したつもりだったのに、その詳細を見落としていました。
私は自分の弁護士に連絡して状況を説明し、条件を明確にするように先方の法務チームと調整してほしいと依頼しました。私が見逃したそのポイントの修正は法務チームの労働時間を大幅に増やし多大なコストが発生しました。
このような齟齬が発生しないように、両者の弁護士が同席した上で条件の確認をすることを強くお勧めします。早い段階でそれをしておけば、大量のメールでのやりとりをせずに済みます。当初私が想定していた弁護士費用は見積もりのとおり15時間相当の費用と考えていました。しかし、この修正を加えるためのメールのやりとりを含めると合計40~45時間分の請求を受けました。ということで、弁護士費用が予算を上回る可能性も考慮しておく必要があります。
買収の条件概要書を作成すると、先方と当方は同意したことになります。しかし、変更が必要になったらどうしますか。容認できる変更なのか、交渉の余地がある内容かにもよります。私の場合、移行過程で売り手はいくつかの問題を指摘し、条件の変更を求めましたが、その中のひとつについて私は交渉の余地なしとしてお断りしました。その点については買収を中止する可能性もありましたが、なんとか妥協点を見いだして、続けることができました。自分にとってどうしても譲れない点は何かについては早期に明確にしておく必要があります。後悔するような判断を避けるためです。
共通する価値観
そもそも弁護士に依頼する以前に、売り手の信念やマインドを十分に把握し理解するための時間を確保する必要があります。私の場合、相手は叔父のアドバイザーとして1992年からお世話になっていた方で、叔父はお金について厳しい考えをもっていました。その方の事業を買収しようと思う以前に、叔父からアドバイザーとしての仕事ぶりは大丈夫か確認してほしいと依頼されていたので、彼が常に叔父の利益を最優先したファイナンシャル・プランを設計していたことを私は知っていました。
また私とその方に定期的にクライアントを紹介してくださる方がいらしたので、その方が長期間にわたりクライアントと良好な関係を維持していることも知っていました。そうした経緯があったので、私は彼ならば同じような価値観を有していると考え、買収しようと決めた次第です。
また、彼がこれからもクライアントのお世話にコミットしている点も大事なポイントで、多くのクライアントは25~30年ものつきあいでした。その方は「私はお客さまの情報をローロデックス(回転式名刺整理文具)で管理している。これからはお客さまにニーズやサービスが必要になったらあなたに依頼したい。必要に応じて医師を手配したり他のサービスも手配できる」とおっしゃいました。つまり価値観や方向性は問題なく、そこは買収の際の重要なポイントだと私は考えています。
スムーズな引き継ぎ
事業を手放したい方の保有契約を検証する際、慎重になる必要があります。契約内容の情報は当然ですが、お客さまごとのメモや覚書、その他のデータや書類がキチンと管理されているかも重要です。もうひとつ重要な注意するべきデータとしてメールの管理があります。どのようにクライアントに伝えるか、タイミング、メッセージのトーンなども慎重に検討するべきです。また、引き継ぐバイヤーへメールをどう引き渡すかのプランを明確にしておく必要があります。
私が最初に勤めていた会社を辞めて独立したときにこの重要性を学びました。退社した際に私の古いメールアドレスが利用できなくなりました。独立を伝えるために私はお客さま全員に新しい連絡先やメールアドレスをお伝えしたのですが、一部の方は古いアドレスに返信しました。メールが戻ってきたので電話をくださった方もいらっしゃいますが、一部の方はそれもせず、見捨てられたと感じていたかもしれません。お客さまから見ればコミュニケーションの欠如であり、この段階で何人かのお客さまを失いました。
そのときの教訓から、移管後も1年間は私のサーバーを利用し古いアドレスが使えるようにしました。古いアドレスにいただいたメールには新しいアドレスから返信することにより、12ヶ月かけて取りこぼすことなくお客さまに新しいアドレスを使っていただけるようになりました。
人的要素
買収にともなって私のオフィスに移転してくるスタッフはこれからこちらのチームに加わるのですから条件を理解し、同意していただくことが重要です。私の場合、あるスタッフが私のところに移転してくださいました。お客さまからの信頼が厚く、とても良い働きをする方なので、お客さまの囲い込みやスムーズな移管に不可欠な役割を果たしてくださいました。
彼女の報酬規定は以前のものを継続するという記載になっていたのですが、実際に移転してから彼女の退職金の積み立て条件が当社のスタッフと違うことが発覚しました。当社のスタッフは12ヶ月就労後から退職金の支払い対象になります。もうひとつは有給休暇の日数が当社の方が少なかったことが問題になりました。
ビジネスの移管に大忙しの時期にこの方の報酬規定の調整に多くの時間がかかりました。ということで、スタッフの報酬規定も慎重にご検討ください。
位置について、用意、成長
このように代理店の吸収合併は大変なプロセスで苦労がつきものですが、それでも事業拡大の優れた手法だという私の考えに変わりはありません。どんなに慎重に対応しても買収には予期せぬ事態がつきものですが、そもそもどうしてその方の保有を買い取りたいのかというポイントを明確にしておくことが大事です。皆さんもぜひ引退する先輩の保有契約を引き継ぎ、大胆な成長を実現してください。