クライアントのことなら何でも知っていて要望も理解していると確信していても、お客さまの意外な言動に驚かされることがあります。そのため適切な質問をして必要な情報を全て入手し、最善の解決策を提供できるようにすることが非常に重要です。
なぜなら情報は取り入れた分だけ提供できるからです。業界に関わらず上級管理職の多くはデスクに座っているだけでどんな問題にも対処できると誤信しています。実際は全ての人や物事は唯一無二なので、ファイナンシャル・アドバイザーは正確な情報をお客さまから直接得る必要があります。
弊社は最近お客さまアンケートを実施し、その中で「なぜ生命保険に加入しましたか?」という質問をしました。回答してくれた引退後の医師は特に負債も無く、主な動機は資産を保全するためと答えました。私はその方が生命保険に加入するべき理由を20項目リストアップできますが資産保全はその中にありません。しかしお客さまにとっては資産保全こそが最も大事な目的でした。このアンケートはお客さまの最大の関心事は何かを問い掛けることがいかに重要であるかを再認識させてくれました。全く予期しない答えが返ってくるからです。
別のお客さまは大規模な未公開株式投資ファンドを経営している方で、かつて私に「もし父に生命保険に加入するという思いやりがあれば父が亡くなった後に母も私たち兄弟もこれほど苦労しなかったでしょう。私は家族を同じような目に遭わせたくありません」と言いました。
今は非常に裕福なので保険が無くても家族は困らないはずですが、このお客さまにとって保険に加入することは思いやりがあることの象徴だということです。このようにクライアントの優先事項や希望は適切な質問によって引き出されることがよくあります。
鍵となる問い掛け
クライアントへの重要な問い掛けのひとつは「お客さまの健康や命にかかわる可能性がある事柄で私たちが知っておくべきことは何かありますか」というものです。特にお客さまが全く健康に見える場合、質問しなければ決して知ることができない健康上の問題が明らかになる可能性があります。あるいは人生の早い段階で健康上の不安を抱えていたことや、ひどい事故に巻き込まれて考え方が大きく影響されたことなどが分かるかもしれません。そのような経験はお客さまの意思決定を左右することがあるので理解しておくことが非常に重要です。
またお客さまを経済的、精神的に頼りにしている人がいるかも必ず聞くようにしています。同居する家族以外に経済的に援助している友人や義理の両親がいるかもしれません。最近お会いしたお客さまは信託の受取人として約20人をリストに入れていました。多くの人を助けたいと思うのは素晴らしいのですが、贈与税の問題に対処する必要があると指摘することができました。私がこの話題に触れなければ効果的な節税対策を提案することはできなかったでしょう。
面談の終わりには「何か重要なことを聞き忘れていないでしょうか」と尋ねることにしています。このような網羅的な質問は見逃してしまうかもしれない細かい点を明らかにできます。
最後はいつも「プロセスにどれくらいの時間をかけたいですか」とお聞きします。こうすることでお客さまの希望に沿ってプロジェクトを完遂することができます。
情報の重要性
お金の話し合いは必ずしも楽しいわけではありませんが、責任や資力を持つ大人にとっては必要だとお客さまに伝えています。こうした議論が無ければ政府が勝手に決めることになり、お客さまが望むものと違う結果になることがよくあります。国民のお金はその人が生まれた日から政府独自の計画の元に置かれています。新たなプランを導入しない場合、政府のプランが実施されてしまいます。
さらにアドバイザーはお客さまから十分な情報を得られなかった場合、往々にして誤った決断を下します。例えば85歳のクライアントに対して余命が短いと予想するのは論理的に見えます。しかし重大な健康問題を抱えた65歳の方より10年長く生きられるかもしれません。
お客さまの代弁者として適切に行動するためには詳細な情報を取り入れることが重要です。クライアントが健康関連の質問に答えてくれない場合、アドバイザーは今後もサービスを継続するか考えなければなりません。そのようなときは「この情報を提供することに抵抗を感じるのであれば他の信頼できる人を探すことをお勧めします。私はお客さまのために最善を尽くしたいのですが、十分な情報を開示していただけなければ一番良いプランを提案することができません」と言うことができます。
クライアントに主導権を与える
会話の主導権をクライアントに握ってもらうことは核心に迫るための効果的な方法だと思います。人は自分のことを話すことに喜びを感じるものです。面談に質問リストを持参しお客さまに好きなだけ答えてもらうようにすれば、お客さまは素晴らしい会話をしていることに満足し、一方で私は必要な情報を収集することができます。
多くのアドバイザーは面談の場を設ける理由を正当化しなければならないと感じ、ついつい話し過ぎてしまいます。お客さまは面談するメリットをすでに理解しているのですからお客さまとそのニーズに的を絞ることが重要です。
面談するときは、たとえお客さまのやりたいこと全てに同意できないとしてもお客さまの要望に耳を傾け、それを実行できるようにするのが私の仕事ですと伝えます。その際「私がお客さまの立場だったら別の方法を採るかもしれませんが、私が正しいと言うつもりはありません」と言う表現を使います。
明確なコミュニケーション
友人の有名なゴルフ・インストラクターは興味深い指導法を教えてくれました。生徒に教えなければならない事柄は10種類ほどしかありませんが、人によって学び方が違うため、それぞれに10通りの教え方があると言います。
同じようにアドバイザーはクライアントとの意思の疎通を図るために同じ内容であっても複数の言い回しを使うべきです。コンセプトを理解するのにグラフが効果的な人もいれば、数字やイラスト、物語を好む人もいます。
どのような場合でも会話の中で適切な質問をしないアドバイザーはお金そのものだけでなく、お金がそれぞれのクライアントにとって何を意味するのかと言った重要な情報を見逃す可能性があります。私たちは最高の解決策を提供することに誇りを持つべきです。
適切な質問をしない人は忙しくて準備する時間が無いと言うかもしれませんが、その言い訳はあまり説得力が無いと思います。何があっても準備の時間を確保してください。どうしても時間を割けないなら少なくともチームメイトに代わってもらってください。時間をかけ質問をして得た重要な洞察は、私たちが提供する何十年もの経験よりお客さまにとってはるかに価値があるかもしれません。
Howard Sharfmanはイリノイ州シカゴの28年間MDRT会員。Contact: howard.sharfman@nfp.com