あなたにとって重要なことは何ですか?何をする時間がもっと欲しいですか?
皆さんはこのような質問をクライアントに数え切れないほどしたと思いますが、同じようにスタッフにとって何が重要でどのようにサポートできるかも知ることが大事です。その答えを知ることでスタッフの離職を防ぐことができます。
フレックスタイム制
Jamie McIntyre, CFPは2016年に事業ブランドを再構築し金融商品ではなくプランニングに集中することにした際、クライアントだけでなく自分のチームにとって何が重要なのかを考えるようになりました。オーストラリア、ビクトリア州Newtownの13年間MDRT会員のMcIntyreはスタッフの福利厚生として無料のファイナンシャル・プランニングを提供することにしました。
彼の会社の顧客サービスはマネージャーの女性とパートタイムで妻のSusanが担当していました。しかしコロナ禍でリモートワークに移行したときに、シングルマザーのマネージャーにとって柔軟な就労時間が重要だということを初めて知りました。そこで労働時間を見直し、彼女が学校の送り迎えや病院の受診を含む家族ニーズに対応できるように勤務時間を柔軟に変動させられるようにしました。
「私たちはチームを大切にし、一人ひとりにとって何が大切かを理解しなければなりません。彼女は給料が上がることよりも家族を優先できる働き方を重視していました。家族のための時間を確保することで働きやすい環境となり頑張ってくれています。でも3~4月と10~11月の繁忙期には残業もあり得ることも理解してくれています。私たちは皆ホールパーソン・コンセプトを守る責任があり、周囲の人たちがホール・パーソンとして生活できるようサポートしなければなりません」と述べました。
カナダ、ニューブランズウィック州Monctonの19年間MDRT会員のJoshua John McWilliam, CFP, FMAには7人のスタッフがおり、そのうち4人は管理部門で勤続年数は数年から15年です。直属の2人のアシスタントは仕事を明確に分けていて1人は顧客の面談前を、もう1人は面談後を担当しています。仕事をこなす時間帯や方法は本人の裁量に任せています。オフィスでも自宅でも通常の勤務時間中でも自由に選んでもらっています。
何時間デスクに座っているかは全く気にしていません。それよりアシスタントは任せた仕事を果たしたのかというファクトに注目します。
—Joshua McWilliam
「何時間デスクに座っているかは全く気にしていません。それよりアシスタントは任せた仕事を果たしたのかというファクトに注目します。スタッフを細かいところまで管理すると離職率が上昇すると思います」と述べました。
以前はスタッフに3~4週間の休暇を与えていましたが数年前に休暇制度を改定し、無制限に休めるようにしました。チームメンバーは好きなときに必要なだけ休みを取れますが、休みが重ならないようにオフィス業務を調整してくれています。4人のスタッフはスケジュールを自己管理し、金曜の午後は交代で少なくとも1人はオフィスにいるようにしています。
「この方針が悪用されたことは一度もありませんし、無制限にした後の方が休暇の平均取得日数はずっと少なくなりました。お互いに責任をもって仕事を分かち合っているのでチームワークがより強固になりました」と言います。
Roy John Hall, ADFP, CCFPには7人のスタッフがいて、そのうち4人は管理部門で6~12年勤務しています。彼の会社にもタイムカードがないので、特に学齢期の子どもがいるスタッフは柔軟な勤務時間とリモートワークの恩恵にあずかっています。
「早退や休暇が必要な人はそうすればいいし、それも含めて最終的にはうまくいくものです」とオーストラリア、クイーンズランド州Hope Islandの19年間MDRT会員である彼は述べました。
特別手当と特典
相場より30~40%高い給与に加えHallが管理部門スタッフを辞めさせないために実行しているもう一つのことは、見込客から契約をお預かりすることで生まれた新規ビジネスの成果に応じて毎月特別手当を支給することです。また保険契約を継続するため規制当局の要求に従って年間リテンション契約に署名した既存顧客がもたらす収入も、特別手当に加算されます。特別手当の平均は1500~2000ドルで、多い月は4000ドルにもなります。そのためHallとクライアントの面談に同行し彼の仕事ぶりを見ることでビジネスを学んだ管理部門スタッフは業務が円滑に進むように努力し、足りない情報の確保、スケジュールの確認、質問への対応をきちんと行い、Hallのために案件の準備をします。
「スタッフはビジネスが成功することを何よりも願っています。私は見込客とお会いして仕事をし、彼らはその案件が最終的に成立するよう精いっぱいのことをしてくれます。見込客が固定客になれば全員に報酬が支払われるからです。スタッフも私もそれぞれの立場での勤勉な努力から利益を得ています」と述べました。
スタッフはビジネスが成功することを何よりも願っています。
—Roy Hall
他の特典として毎年スタッフ全員をサラブレッド競馬メルボルン・カップの昼食会や豪華なクリスマス・パーティーに招待しており、ある年は4日間クルーズでブリスベンからシドニーまで東海岸を往復しました。またHallとMcWilliamはスタッフに無料のリタイアメント・プランニングを行っています。オーストラリアの雇用主は従業員の給与の11%に相当する額を個人退職金勘定に入れることを義務付けられていますが、Hallはそれ以上の額を上乗せしています。カナダの雇用主は通常、従業員が退職金勘定に拠出した額の3~5%を拠出しますが、McWilliamは歯科と医療保険の保険料に加え9%を拠出しています。
「何と言ってもわれわれはリタイアメント・プランナーですからスタッフにも経済的に安定したリタイア生活を送ってほしいと思っています。私はその責任を感じて行動しているだけですが、それが長期的なものの見方や献身を生み出し大きな成果に繋がっています」とMcWilliamは語りました。
地域社会との繋がり
複数の研究や調査では、有給のボランティア休暇を取る従業員は良い行いをしていることを実感し、より献身的に働くと論じています。カリフォルニア州Monroviaの18年間MDRT会員のHozumi Hanada, LUTCFは四半期ごとに24人のスタッフと共に地域で奉仕活動を行っています。近年チームは困っている人々への食糧、危機管理、雇用開発、住居、ホームレス・サービスを支援するFoothill Unity Centerという組織でボランティア活動を行っています。
このコミュニティ支援活動は同組織を1992年に設立したハワイ出身のStephen Kagawa, FSS, LUTCF(MDRT会員歴31年)によって始まりました。アロハ(愛と尊敬)とポノ(正義)を持って行動し、イムア(前向き)になるよう心掛け、オハナ(家族)のように人と接し、マハロ(感謝)の気持ちを持つという原則に基づく活動です。Hanadaは日本人コミュニティの約500人の顧客にサービスを提供し、ビジネスの目標と地域との関わりを結び付けることでチームの強化と維持を促しています。
ボランティア活動を経験することで地域奉仕の大切さを学んでほしいと思います。
—Hozumi Hanada
「ボランティア活動を経験することで地域奉仕の大切さを学んでほしいと思います」とHanadaは言います。
各ボランティア活動の後に開かれる報告昼食会では何を行ったのか、どう感じたのかを皆で共有します。
「涙を流す人が必ずいます。今では地域をより良くするために自分の時間をボランティア活動にささげるスタッフもいます。従業員は会社の行動規範を身をもって知ることになります」とHanadaは述べます。また、この活動はスタッフが適格なチャリティー団体に寄付をした場合は同額をマッチングしています。「こうした活動によって私たちはより良い人間になるよう助けられますし、社員の仕事への関与レベルは明らかに上昇しました」
情熱と理解を引き出す
管理部門は事務作業を一手に引き受けて行き詰まりを感じることがあります。テキサス州Hurstの6年間MDRT会員であるAndrew Tice, FICは17人のアドバイザーと退職前・退職後の合わせて500人のクライアントをサポートしている3人のスタッフが、単なる仕事以上のことをしているという事実を見失う可能性があることを知っています。
あるとき、死亡保険金の支払いで難しい案件を扱ったTiceは残された配偶者が背負う数多くの重荷について妻に話して聞かせました。そして、オフィスに戻ってスタッフに何が起きたのか伝えるだけではなく別の方法を採るべきではないかと考えるようになりました。その件以来、スタッフを面談に同行させることにし、スタッフがクライアントと信頼関係を築き、サポートする仕事に当事者意識を持てるようにしました。初めて面談に連れて行ったアシスタントは未亡人に一人ではないと言って励まし、必要なことがあればいつでも連絡してほしいと言いました。
「彼女のお客さまに対する思いやりに感動しました。彼女がその後も気遣いを示し続けるのを見て、私は自分のやっていることが無意味ではないことを確信しました。クライアントが苦情の電話をかけてくるなど散々な1日だったとしても現場での経験があれば共感を持ってクライアントと接することができ、その気持ちは相手にも伝わります」と述べました。
このような思いやりはお客さまの満足度を高めますが、ビジネスにもメリットがあります。スタッフはこの事業の影響力に対する理解を深め、会ったことがないクライアントにももっと敬意を払うようになりました。スタッフはTiceの事業への洞察が深まるにつれ、より多くのフィードバックを行いオフィス業務の合理化や意思疎通の改善のためのアイディアを出しています。
「自分が行っていることの正当性を信じる人は、立派な動機付けのスピーチをはるかに上回る情熱を持って仕事に取り組んでいます。勤務先の人々に誇りを感じているなら、その関係を捨てて離職することは簡単ではありません」と語りました。
変化をもたらす力を与える
10年前にあるクライアントからMichael Joseph Haggerty, CPCA, CFP(カナダ、ニューブランズウィック州Frederictonの16年間MDRT会員)のオフィスに電話がかかってきて、起こったミスへの対処を尋ねられたところ、そのスタッフはHaggertyが答えを出すまで待ってくださいと言いました。クライアントは2日間待たされてさらに気を悪くしました。Haggertyはすべてを円滑に行うにはクライアントである2500世帯と多くの経営者を担当する6人のスタッフにもっと権限を与えなければならないと判断しました。
「新しい対応によりスタッフは自分の意見が重要であると自覚してくれました」と言います。
クライアントが苦情の電話をかけてくるなど散々な1日だったとしても現場での経験があれば共感を持ってクライアントと接することができ、その気持ちは相手にも伝わります。
—Andrew Tice
権限を与えられたことによりスタッフは紹介者にお礼として25~50ドルのギフト券を贈ることができるようになりました。あるときは、夫が亡くなったと嘆きながらオフィスにやって来た女性に花を注文しました(女性は友人から紹介され、後にクライアントになりました)。またあるときは運転できない母親を面談のためにオフィスまで送ってきてくれた女性に、お礼の手紙とギフト券を贈りました。
Haggertyは「送ってきてくれた娘さんにお礼をすることは想定外でしたが、受付にいたスタッフのTravisが娘さんの心に『なんて良い人たちだろう、私は客でもないのに』という印象を植え付けたのは見事でした。この方針によりスタッフは私が何もかも管理しようと思っていないこと、スタッフが重要だと思うことは会社にとっても重要なのだという意識を持つことができます。当然会社に貢献しようという意識も高まりました」と述べました。
インパクトのある称賛
Gary F. Heuer, FICSのギフト券やカードの使い方は普通と少し異なります。
何年も前、オレゴン州Lake Oswegoの32年間MDRT会員であるHeuerは年金の設定を担当したお客さまから手書きのお礼状をいただき、スタッフにも同様のことをしようと考えました。それが「あなたの善い行いを見つけました」カードの始まりです。あるクライアントからアシスタントが複雑な受取人変更の手続きに忍耐強く対応してくれた、と言われたHeuerはカードにその出来事と感謝の気持ちを書き、そのアシスタントにスターバックスのギフト券を添えて渡しました。
「少しでも言及することが優秀なスタッフを囲い込む助けになります。そうでもしないとお客さまから○○の対応がとても良かったと言われてもスタッフの耳に入ることはないかもしれません。ちょっとした気遣いが優秀なスタッフを囲い込む助けになります。ボーナスは大事ですが、小さな気遣いこそ大きな力になります」とフルタイムとパートタイムの管理スタッフ2名と共に350人のクライアントにサービスを提供するHeuerは述べました。
5年来のアシスタントが夫とデンバーに1週間旅行したいけれど高額だと嘆いていたとき、Forrest DeBuys III, CLU, ChFCは自分のマイレージを使って2人の航空運賃を払いました。DeBuysは費用をかけずに彼女に感謝の気持ちを伝えることができ、彼女にとっては1000ドル以上の節約になりました。
「彼女はチケットが携帯電話に表示され驚いていました。とても喜んでその後もずっと感謝されました。小さな事業所で働く優秀な人材に型にはまらない個人的な贈りものをすることは、スタッフの定着率やオフィス文化や士気に大きな影響を及ぼすと思います」とアラバマ州Birminghamの25年間MDRT会員であるDeBuysは言いました。
カナダ、マニトバ州Winnipegの26年間MDRT会員であるShawn R. Bjornsson, CPCAは20年来のアシスタントが家族と2週間のクルーズを計画していることを知り、費用の一部としてボーナスをプレゼントしました。
ちょっとした気遣いが優秀なスタッフを囲い込む助けになります。ボーナスは大事ですが、小さな気遣いこそ大きな力になります。
—Gary Heuer
「誰もが自分の時間が尊重されコミュニケーションが円滑で待遇も良いところで働きたいと言います。うちのスタッフは本当に優秀なのでどこにも行ってほしくないからこその行動です」とBjornssonは言いました。
Haggertyはさらに一歩踏み込んで感謝を示しました。6年来のエグゼクティブ・アシスタントは以前から自宅のデッキを改装したいと言っていました。しかしその費用としてボーナスを支給しても、子どものために使うような人でした。そこで請負業者であるクライアントに依頼してリフォームを手配し、費用を支払いました。
「私はスタッフのことをよく知っているので彼らにとって何が重要なのかも分かりますし、今回のことでそれを示すことができました」とHaggertyは述べ、デッキの改装にかかる税金をカバーするためにボーナスも支給しました。「小さなことでも気遣いは伝わるものです」
福利厚生は雇用主にとっても有益です。HaggertyがアシスタントのTravisになぜクライアントの娘にギフト券をあげたのかと尋ねると、彼は友好関係を築くことが「私たちのためになる」と説明しました。
「スタッフが『私たちのためになる』と言ったらしめたものです。会社を『私たち』と見なしている証拠です」とHaggertyは語りました。
アドバイザーを囲い込むためのアドバイス
Jason L. Smithは多くの優秀なアドバイザーが自分の会社を後にして独立したり、他社へ転職したりするのを長年にわたって目の当たりにしてきました。オハイオ州Westlakeの19年間MDRT会員である彼は将来の競争相手を訓練するという流れを止めなければならないことに気付き、囲い込むためのプロセスを開発しました。
「社内にキャリアパスがなかったので昇進経路を文書化し、最終的には社内パートナーになる道があることを明らかにしました」と言います。
5段のはしごという分かりやすい画を使った囲い込み戦略を考案し、求職者や新入社員に見せてどのように昇進できるのか、社内で何が待ち受けているのかを説明しています。はしごの1段目は顧客サービス担当で面談前と面談後の後方業務を行う初歩的なポジションです。2段目も後方業務ですがパラプランナーの仕事が加わり、ファイナンシャル・プランナーになるための資格やライセンスを取得する機会を得ます。
3段目は次席アドバイザーとして表舞台で顧客に対応する役割に移行し、主任アドバイザーに同行して小規模のクライアントや見込客の対応という仕事をします。
「バックオフィスを担当している頃から彼らは私を観察し、学び、手間のかかる仕事をたくさん引き受けてくれるようになります。裏方やパラプランナーのときに事務仕事を全部学び教わっているからです。メモ取りや事前調査まで引き受けてくれるので、私はトップ・アドバイザーとしての力量を十分に発揮できます。またお客さまとの面談に同行することで非公式なメンタリングを行うことができます」とSmithは言います。はしごの4段目は主任アドバイザーになることで、5段目は精鋭アドバイザーだけがなれる社内パートナーです。
「彼らは稼ぎ頭であり最高の人材です。そのような人たちを引き込み、囲い込み、最終的に報いるべきです。金の手錠(訳注: 英語の比喩で優遇措置)をかけてでも辞めさせたくありません。アドバイザーを採用し育成する際にそのような展望を示すことができれば、競争優位性の観点から大きな違いが生まれます。彼らは自分がはしごのどの段にいるのか、どうすれば上に行けるのか理解しています。何を達成する必要があるのか非常に明確で、いつ昇進するかという推測ゲームやえこひいきではないかという邪推も生じません」と言います。大学のインターンとして時給10ドルで働き始めたあるアドバイザーは階段を上り、最近会社の株式を20%保有するパートナーになりました。
「アドバイザー候補や現役アドバイザーに、あなたの会社で働けばもっと大きな未来が待っていることを伝えてください。パートナーになるために退職する必要はありません。経営者にならなくても希望する収入を得ることはできます。辞めなくても大丈夫です。この会社にとどまればそれができると教えてあげてください」とSmithは語りました。
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