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手紙で傷心を癒やす
手紙で傷心を癒やす

5月 01 2024 / Round the Table Magazine

手紙で傷心を癒やす

MDRTアニュアル・ミーティングのチャリティー・パートナーであるLetters to Strangersは若者のメンタルヘルス・プラットフォームを提供しています。

対象のトピックス

日記をつけるのは非常に良いことですが、ひとつ例外があります。悩みが深刻な場合は書き手の自分が最大の敵になりかねません。

この気付きがきっかけとなり、当時14歳だったDiana Chaoは、2024年度MDRTアニュアル・ミーティングのチャリティー・パートナーのLetters to Strangers(L2S)を立ち上げ、この10年間に6大陸で50万人以上の人々を支援してきました。「心の健康を一人一人に」をスローガンに掲げるこの団体の私的かつ公的な本質を理解するためには、まず手紙を書かなければなりません。

Chaoは双極性障害と診断されてから自殺未遂を乗り越え、4年間南カリフォルニアで貧困ライン以下の暮らしを送りました。英語を話せない両親からは女の子だからと見下され、周りからは「白人ばかりの町の学校にいるアジア人の子」といじめられました。

移住前は中国の非常に貧しい地域で育った彼女は想像上の人物に手紙を書くことにしました。その時にいてほしかった人に宛てた手紙です。それは救われたいと切望し、自殺未遂をしたときにChaoいわく「私を死ぬ間際で見つけてくれた」4歳年下の弟への責任感から始めた果敢な努力でした。

「最悪のことばかりが起きて惨めな気分でした。でも私の話を聞いてくれ、気にかけてくれる人がいると想像すると気が楽になりました。私が想像上の人物に手紙を書いて気持ちが救われるなら、他の人の助けにもなるかもしれないと、ようやく希望と癒やしへの道筋が見えた気がしました」と述べました。

ピザの予算を超えて

Chaoは高校2年生のときにクラブ活動としてL2Sを立ち上げました。友人を誘ってミーティングを開き、わずかな予算でピザを買いました。クラブのメンバーは自分の弱さや悩みを話し合いました。匿名の手紙を書いて自分と同じような苦難に耐える人たちを応援し、ミーティングの参加者間で手紙を回し読んで議論をしました。ピザを買うお金がなくなっても参加者は集まり続けました。

その後、隣町の少女が自分の高校でもクラブを立ち上げたいと言い、L2Sの最初の支部ができました。Chaoはすでにやっていたこと、つまり知らない人に宛てた手紙を書くことを勧め、ミーティングを開いて若者同士が心の葛藤を支え合うコミュニティに育てる方法を教えました。他の支部とは手紙を共有しました。さらに多くの町が加わり、州、そして全米へと展開していきました。ネットワークに参加しない人でも手紙を交換できる無料のオンライン・プラットフォームもあります。L2Sは現在70カ国で運営され、白人ではない女性やノンバイナリーの人々を中心に毎年3万5000人を支援しています。

「この活動をしたいと言ってくれた多くの人たちから自分と同じような人、あるいは生い立ちが似ている人、そして自己嫌悪せずに精神疾患について発言できる人に会ったのは私が初めてだったと言われました。そのような経験を持つ人が多いのは悲しいことですが活動のプラスになりました」と、オックスフォード大学でMBAを修了したばかりのChaoは語りました。「実は激しく自己嫌悪していたのですが、そんな風に見えなかったのでしょう。自分のアイデンティティーそのものが心の健康に良くも悪くも影響していることを正直に話していなければ、この運動は起こりえなかったと思います」と語ります。

なぜ知らない人に宛てた手紙を書くのかと思うかもしれません。多くの人はお互いにどう慰め合っていいのか分かっていません。それなのに一流のアドバイスをしなくてはならない、というプレッシャーをなくすためでもあるとChaoは言います。また、手紙を書く人は書いた内容だけが重要で、肌の色や性別、生い立ちで判断されないようにすることで二重の意味で匿名性も保てます。

「私は純粋に私の人生の物語を伝えています。その物語をコントロールできるのは私自身です。知らない人に手紙を書くことは、自分は声をあげる価値があり、語る価値のある物語を持っていることを示し、そのすべてが生きる価値のある人生に繋がっていると思い出させてくれます」と言います。

2024年度MDRTアニュアル・ミーティングでは、MDRT Foundationサービス・プロジェクトとして参加者に筆記用具、本、Tシャツなどの支援セットを準備していただき、L2Sが各支部に配布する予定です。参加できない人はletterstostrangers.orgへアクセスすると寄付や他の参加方法を確認できます。手紙の提出や地域クラブへの登録に加え、地元の学校でメンタルヘルス対策が実施されていない場合はL2Sの無料教材を紹介するなどの参加方法もあります。

L2Sはチームから出たアイディアと実際の活動展開の両輪で推進されています。中心となるスタッフは、130を超える支部と連携する約12人(サービス対象者の多くが30歳未満ということが反映され、全員26歳以下)の職員です。匿名で交換される手紙や仲間主導のディスカッションに加え、L2Sはガイドブックや教師用ハンドブックも提供しており、政府とパートナーシップを結ぶネパールでは1万人の高校生を指導するなど、世界各地でカリキュラムが採用されています。またL2Sは草の根の支援活動や、アフリカ大陸全域を対象に(L2Sのリベリア事務所で管理し、同国の国家予算で)運営されるホットライン、移動クリニック、カウンセリング・プログラムなど多様なサービスを提供しています。

戦うことで力づける

この問題は明らかに世界的な問題です。全米自殺予防ライフラインの危機管理カウンセラーとして活動していたChaoは、言うまでもなくとてもつらい状況にある人々を目の当たりにし、心と身体の健康がどれほど密接に結び付いているかを知っています。彼女自身、精神的なトラウマから心身症を引き起こし、高校生活の半分を失明状態で過ごし、一時は43度の熱を出して生命維持装置に繋がれたこともありました。初めて家族から家を追い出されたのは6歳のときで、スーパーマーケットの駐車場の最下層で寝起きし、ゴミ箱の食べ物をあさって生き延びました。

Chaoの父が亡くなったときに弟は「僕たちはまるで2人の違う父親に育てられたみたいだった」と言いました。それでも父は亡くなる前にChaoに謝罪し、世代間のトラウマが癒やしに向かう可能性があることを示しています。

「子どもの頃は謝罪される日が来るとは想像できませんでした。私がこの道を歩き始めたとき、最初はとても困難で家族も困惑していました。けれども私たちは皆、癒やしを求め、癒やされる必要があります。自分から扉を開けて人々を招き入れた後には、想像を超えることがよく起こるのです」と語りました。